まあ、確かに女性が三十代を迎えると、いろんな変化が起こるのが普通らしいが、俺は別に気にしない。


 返って若い女に手を出すより、自分と同じぐらいの年齢の女性の方がいい。


 それに俺は里夏と趣味が合っていた。


 俺自身、元々読書好きで、いろんな本を読む。


 彼女も大学では『枕草子』が専門だったようで、文学・文芸に関しては趣向が一致していた。


 俺は簡単な本から難解な類のものまで、いろんな本を読み漁りながら、日中は仕事に精を出す。


 会社で企画部に在籍している俺は企画書ばかり打っていた。


 ずっとキーを叩き続けながら、腱鞘炎(けんしょうえん)になりそうな手を時折休め、また打ち続ける。


 里夏は秘書課にいて、社長の松岡と接する機会が多かった。


 俺たちのいる会社は小さなビルを借り受けて経営していて、別に大会社じゃない。


 確かに嫌なこともあるにはあった。