一昔前から不動産屋は流行らず、曰くつき物件のようなものばかり提供し続けているようだった。


 俺も自分が住んでいる部屋がやけに家賃が安いことを不可思議に思っていたのだ。


 関東でも東の外れにある県の街で、東京都心からはやや遠い。


 風呂上りに俺はキッチンにある冷蔵庫を覗き込んで、缶ビールを二缶取り出し、一本を里夏に手渡した。


「ああ、ごめんね」


 彼女がそう言って缶を受け取り、プルトップを捻り開けて、飲み始める。


 俺もビール缶に口を付けた。


 今夜も寝苦しい夜が訪れようとしている。


 辺り一帯が一際暑く、旧型のクーラーがやっと利き始めた。


 元々、このマンションも不動産屋がかなり値段を下げたところを見ると、その手のものなのだろう。


 だが、俺は心霊現象や怪奇譚(かいきたん)の類は全く信用しない。