カチャリ、カチャリ……。


 鎧と甲冑が鳴る音が時折聞こえては止む。


 俺は怯えていた。


 死というものなど、三十年間生きてきて、一度も真剣に考えたことがなかったからだ。


 そして霊の持つ血みどろの刀が、自分に振り下ろされる瞬間が何よりも怖かった。


 あの霊は次に俺と里夏を標的にしてくると踏んでいたし、実際そうなのだ。


 俺は店で食事代を清算してもらい、ガタガタと震えながら歩き出す。


「どうかしたの?和義」


「いや、何でもない」


 カチャリ、カチャリ……。


 静かな夜に不気味な音が鳴り響く。


 恐怖の始まりは、まさにこれからなのだった。


 スースーという啜り泣きの声まで聞こえていて……。