それに今のところ、銀行に預けてある貯金も少ないのだから……。


 到底、引越しできる体制じゃなかった。


 俺はここで動揺してはまずいと思い、あくまで心を落ち着ける。


 カーッとなっていた頭を切り替え、変に動かないよう注意しながら……。


 もちろん、恋人である里夏には打ち明けるつもりでいた。


 メールが入ってくれば、ちゃんと返信していたのだし。


 それに彼女もまた俺の部屋に来てくれる。


 俺は霊の恐怖を克服するつもりでいた。


 もう変な霊媒師などには一切頼まずに。


 そして俺はその日も通常通り出勤する。


 髪を整え、洗面してからカバンに書類などを入れ、部屋を出て歩き出す。 


 この蒸し暑さで疲れているのは事実だ。


 だが、そうとばかりも言っていられない。