Faylay~しあわせの魔法

「赦すか赦さないかは、あんたが自分で決めてくれ。俺はリディルを助けに行く」

コトリ、と像の下に本を立てかけ、フェイレイは立ち上がった。

そしてくるりと背を向けた瞬間。

ガラガラと、音を立てて勇者の像が崩れ落ちた。

「──っ!?」

風が吹いたわけでも、雷が落ちたわけでもなかった。

ただ、何の前触れもなく像は粉々に崩れ落ちた。フェイレイの置いた本を綺麗に避け、その欠片が砂の山となる。

それが答えか。

フェイレイは微笑んだ。

「その本、あんたにやるよ……」

そう言い残し、その場を後にした。



柔らかな土を踏みしめて森の出口を目指して歩いていると、刺すような殺意がフェイレイの周りを取り囲んだ。

「魔族……」

防御壁が張られているはずの城の敷地へ踏み込んでくるからには、相当な手だれだ。

サッと腰の後ろへ手をやって、そこで動きを止めた。

(駄目だ)

フェイレイは視線を走らせ、魔族の姿を確認する。

白い虎のような姿をした魔族が10体ほど。剣を抜けばひとりでも十分に撃退出来る数だが……フェイレイは剣を抜かなかった。

低く唸りながらジリジリと迫ってくる魔族たちを見据え、フェイレイは叫んだ。

「お前たちは、人間の言葉が分かるのか!? だったら止まれ! 話し合いがしたい!」