Faylay~しあわせの魔法

フェイレイは『勇者伝説』の本を持って、ひとり王城の北にある森へ入っていった。

以前と同じく、人の踏み込んだ気配のない森の中は、動物の気配も鳥の鳴き声も聞こえてこない。

荘厳な雰囲気だと思ったそれは、本当は誰も寄せ付けない悪しき空間だったのかもしれない。

春の訪れにより幾分和らいだとはいえ、朽ちた廃殿はやはり冷たい空気に包まれていた。

そして、廃殿の中央にある『勇者』の像も。

触れられることを拒むかのように、そっと佇んでいた。


フェイレイは像の前に座り、ジッとそれを見上げた。

ランスロットの声はあれ以来まったく聞こえない。自分の内に問いかけてみても、一度として言葉を返されることはなかった。

道を違えた2人の『勇者』はもう、言葉を通じ合わせることが出来ないのだろうか。

けれどここに来ればランスロットに声が届くような気がした。

像を見上げていたフェイレイは、そっと古い本に目を落とした。

何度も読み返されてボロボロになったその本は、フェイレイが幼少の頃から愛読してきた『勇者伝説』の本だ。

子供向けに簡単な言葉と挿絵付きで描かれた物語。

憧れの勇者に近づきたくて、いつも手元に置いておいた本。

その本に著者名は書かれていない。

「……なあ、あんた、知らなかったんだろ。この本書いた人のこと」

パラリ、とページを捲りながら語りかけた。人々の抗争が描かれた絵が現れる。

「そりゃそうだよな。あんたが死んだ後で書かれた本だ」

パラリ。

静寂の中に、乾いた音だけが響く。