潮風が心地よく通り過ぎる海賊船の甲板の上で、フェイレイ、ヴァンガード、キャプテン・ブラッディの3人が輪を作って座っていた。

「リディル様の居場所か……。連合軍が3ヵ月探し続けているが、まだ見つかっていないそうだぞ」

太いマストに寄りかかり、腕組みをしながらブラッディは言う。

「うん、普通に探してもきっと見つけられない。……“この世界”にはいない」

「“この世界”には、ねぇ……」

ブラッディはうーん、と考え込んだ後、何か閃いたように顔を上げた。

「そうだ、『哀しみの塔』だ」

「え?」

「皇都で魔王と戦ってたとき、確か精霊たちが言ってたぞ。今度こそ、哀しみの塔にひとり、閉じ込めてはいけない……って」

「……『勇者伝説』の哀しみの塔、ですか?」

ヴァンガードが訊く。

「俺はそれしか思い当たらないがな」

「でも……結局のところ、『勇者伝説』はアライエルが作り出した、嘘の物語……なのでしょう?」

「そうなんだろ?」

ブラッディ、そしてヴァンガードはフェイレイを見る。

「うん……本当は魔王がティターニアを護り、ランスロットが世界を滅ぼそうとしていたんだ。『勇者伝説』は、真実を隠したいアライエルが作り出した物語のはず」

けれど……。

「『今度こそひとり、閉じ込めてはいけない』?」

精霊たちの言葉を復唱し、フェイレイは考え込む。

「……ティターニアは本当に、ひとりで哀しみの塔に閉じ込められていた、ということでしょうか?」