「いいのかい?」

「うん。ありがとう、気持ちだけもらっとく」

少し残念そうな露店主に申し訳ないと思いつつ、その場を立ち去る。

指輪。

それはもう、フェイレイには必要のないものだ。

無意識に手を持っていった先に、首から下げられた3つの指輪。

ぶつかりあってチリチリと鳴る小さな音は、雑踏の中に消えていく。




「ご両親を失っただけでも、辛いことでしょうに」

流れ行く白い雲を眺め、ヴァンガードは顔を歪めた。

「誰も気づかないんですよ。あの人が本当はちっとも笑っていないことに。……リディルさんだったら、きっと……」

ギュッと拳を握り締めるヴァンガードに、ローズマリーも哀しげに瞳を伏せる。


時が流れれば変わるのだろうか。

フェイレイにも心から笑える日が来るのだろうか。

けれどそんな日は来てほしくないと、ヴァンガードは願っていた。

フェイレイとリディル。

2人が一緒に笑いあえる日がきっと来るのだと、信じていたかった。