Faylay~しあわせの魔法

懸命にフェイレイの動きを止めているリディルの横を、魔王がスッと横切る。

「お前が護ってやる必要はない」

魔王はリディルにそう言うと、フェイレイに向かって突進した。

「アルトゥルス、駄目!」

リディルの力で動きを封じられたフェイレイは、向かってくる魔王に成す術がない。

だがそれもやむを得ないだろうか。

このままではフェイレイはこの場にいる者たちを全員殺してしまう。そして世界を手中にせんとして動き出すだろう。千年越しのランスロットの願いを代行する者として。

ならばここで消える方が良いのかもしれない。愛しい者や、大事な仲間たちをこの手にかけるくらいなら。

けれど……このまま魔王に倒されてしまったら。

今度は魔王が世界を滅ぼしてしまう。

それでは頂点に立つ者が変わるだけで、結果は同じだ。

そんなことは──駄目だ。

(何とかしろ、俺!)

リディルの力を振りほどこうとしながら向かってくる魔王に視線をやると、彼の動きが急にピタリと止まった。フェイレイと同じように、足裏を白い光に縫いとめられてしまっている。

「リディアーナ!」

いつの間にか魔王の前に出たリディルを見て、魔王が焦りの表情を見せる。

勇者と魔王の力を抑えるのは、さすがにティターニアの力でも手に余るらしい。

リディルはフラつきながらフェイレイの前まで行くと、僅かの間息を整えてから、翡翠の瞳をランスロットへ向けた。