Faylay~しあわせの魔法

「リディルは……!」

ギリ、と歯噛みしてアレクセイを睨みつけるが、彼は微笑を浮かべただけでそれ以上何も言わなかった。

それがかえって不安を助長させる。

この二週間、魔王が黙ってリディルを傍に置いておくはずがない。

そう思っていたからこそフェイレイはほとんど休息も取らず、早く海を渡ろうと戦い続けてきたのだ。

「リディルは、無事なのか」

「確かめたければ、私を倒して先へ進むがいい。それが出来れば、の話ですが──」

言葉の途中で、ヒュ、と空気が鳴った。

雨粒がアレクセイの頬を強く叩いたと思った瞬間、目の前でフェイレイが剣を振りかぶっていた。

速くなった。

アレクセイは微笑みながらその剣を受け止めた。

「踏み込みが甘い。だから貴方は殿下をお護り出来ないのですよ」

「黙れ!」

剣を交えるたびに高い金属音と火花が散り、激しい闘気が渦となって高く舞い上がっていく。

剣を両手で持つ分、以前よりもフェイレイの剣には重みが増した。だが精彩さに欠ける。その手に持つ獲物が違うからだ。

毎日傍に置いてきたものと、仮初の剣ではやはり扱いが変わる。その重みも、長さも、手の馴染み方も違うから。

「貴方とは本気で勝負したいと思っていたのですよ」

アレクセイは軽くステップを踏むように後退すると、回廊の先にある扉の前まで行き、その下に置いてあったものを拾い上げた。