Faylay~しあわせの魔法

「リディル、脱出するぞ!」

リディルの表情が分かるくらいの距離から、フェイレイは叫んだ。

「うん。先に行って」

「え?」

「もう少し、ここで抑えておく」

静かな声は、いつもと変わらないように響いたが、凍りついたドラゴンを見つめたままそう言う彼女の顔色は青白く、どう見ても限界を超えていた。

「ヴァン、腕は痛くないか?」

「え? 腕は平気です」

いきなりの質問に、ヴァンガードは少し驚きながら答える。

「じゃ、ちょっと自分の力だけで掴まってて」

言うなり、フェイレイはヴァンガードの足から手を離し、素早くリディルを抱え上げた。

「フェイ」

非難めいた声が聞こえてきたが、ここは無視だ。フェイレイはズンズンと歩き始める。

「フェイ、2人も抱えては無理だよ。怪我してるのに」

「フォレイスに治してもらったよ」

「完全じゃない。アランを召び出すのにフォレイスにまで力を使えなかったから」

「俺、丈夫だからね」

ニッと笑ってリディルを抱く手に力を入れる。

フェイレイの胸に頬を押し付けられたリディルは、目の前が霞んでくるのを感じた。