Faylay~しあわせの魔法

「痛みは?」

ヴァンガードは首を振り、大丈夫です、と呟いた。それを聞いて、フェイレイはヴァンガードを背負う。

「掴まってろよ」

そう言いながら岩を飛び越え、リディルのもとへ戻る。

ヴァンガードは潰されていた足に激痛を走らせていた。だが、それを口にすることは無かった。

右腕すべてを火傷し、更に牙に貫かれた跡が痛々しいフェイレイの腕を見たら、そんなことは口に出してはいけないような気がした。

だって彼は、まったく痛みなど感じさせないくらい平気な顔をしている。額に玉のような汗を浮かべて。



岩陰から姿を見せた2人を目にして、リディルの身体から一気に力が抜けていった。氷の女王はチラリと彼女の顔色を伺う。

《……ここまでだな》

元から白い肌が一層色を失い、透き通って見えそうだった。

リディルは視線だけを女王にやると、重い唇を開いた。

「もう少し……」

《そなたには荷が勝ちすぎる。わらわを留めておくには力が足りぬ》

「でも、今は」

もう少し、この状態を維持しなければ。リディルは浅い呼吸を繰り返しながら、フェイレイが駆けてくるのを見守った。