魔王は今まで、近づく人間を気まぐれで切り刻んでは、愉しそうに笑っていた。

けれどもこの少女には、決して手を上げようとしない。

それは少々意外だった。

処刑するつもりでいるのだとばかり思っていたのが、こうして傍に置き、小言や憎まれ口を叩かれても、穏やかな顔でそれを受け止めている。


『私の愛する人が“しあわせ”になる』


世界を滅ぼす目的を聞いたときに返された答えは、この少女のことであったのだとアレクセイは理解した。

そして彼らの会話から、真実を摘み取っていった。

魔王とティターニア。

魔族の王と精霊の女皇、彼らの間に何があったのかは、アレクセイには知り得ることが出来ない。

だが、ティターニアの魂を宿すというこの少女を、魔王が酷く大切にしていることだけは分かった。

愛しているのだと、そう、感じた。

だからなのか。

彼女が傍にいることで、魔王の力が完全になりつつあるのは。

今まで一条の光も差し込まない闇の中にしかいられなかった魔王を、リディルが光の世界へ導いている。

リディルが、魔王を強くしているのだ。

それは彼らの、目に見えない絆がそうさせているのかもしれないと、アレクセイは感じ始めていた。