落ちていく。

大切な人が、空に命を落としていく。

(駄目!)

リディルは手を伸ばした。

背後から迫り来る魔の手を振り払い、助けたいという想いが身体から飛び出し、風となって空へ飛び込んだ。

意識を失い、物凄いスピードで地上へ引かれていくフェイレイの身体を捕まえて、『落ちるな』と念じる。

すると周りにシャボン玉のような膜が出来て、2人をすっぽりと覆い尽くした。

鳥の羽根のように軽くなった身体は、ふわふわと、ゆっくり下降していく。

それに安堵すると、今度はフェイレイの胸に突き刺さった剣の欠片に手を伸ばした。

『消えろ』と念じると、それはふうっと消えてなくなる。そして傷口もすっかり塞いでしまった。

「フェイ、目を開けて」

泣きそうになり、声を詰まらせながら呼びかける。だがフェイレイからの返事はない。

「フェイ、フェイ」

身体を揺さぶり、何度も何度も呼びかける。

そうしていると、身体に何か細いものが巻きついてきた。

ビクリと身体を震わせ、上を見上げる。あの『白い手』が、黒い糸を伸ばしてリディルを捉えようとしていた。

「嫌だ! 放して!」

もがいても、もがいても、糸は身体に食い込み、断ち切ることは出来ない。

とうとうフェイレイから引き離され、ふわりと身体が空へ浮き上がってしまった。