Faylay~しあわせの魔法

アレクセイの攻撃を避けながら繰り出す拳が血にまみれていても。

甲板を蹴る足に力が入らなくなってきても。

雨に濡れる身体が異様なまでに冷たく感じはじめても──諦めることだけはしなかった。

何が何でもアレクセイを押さえつける。その気持ちだけは持ち続けた。

けれど気持ちだけが空回りするように、繰り出した拳は雨粒だけを弾き、決してアレクセイに触れることはなかった。

代わりに、身体中でアレクセイの剣を受ける。

よろけて甲板に上に指先をつけた瞬間、顔面を蹴り上げられ、後ろに引っくり返った。

バシャリ、と水溜りの上に倒れたフェイレイの身体に、暗雲からは冷たい雨が降り注ぐ。

蹴られたところが燃えるように熱い。

荒く吐き出される息は熱いのに──寒い。

指の先は凍りついてしまったかのように動かなくなる。


「……やはり、まだ早いか」

アレクセイの囁く声は、雨音にかき消される。

まだ早い。追いつけていない。時間が足りない──。


動けなくなったフェイレイの襟首を掴むと、ズルズルと甲板を引き摺って歩き出した。

このまま甲板から空へ投げ出せば、戦艦の周りを飛び回る精霊の女王たちの目に留まり、それを操っている皇女殿下がなんとかしてくれるだろう。

魔王からは『首を取れ』と言われているが、まだ死なせるわけにはいかない。

この高さから落とせば、普通はまず助かりはしないのだ。誰にも不振がられることはない──。