Faylay~しあわせの魔法

アレクセイの言葉に、目を見開いたのはローズマリーだけではなかった。

傍に控える将校も、オペレーターを務める管制官も、待機する兵士たちでさえ思わず彼を振り返った。

「良い機会だ。教えておいてさしあげましょう、『皇后陛下』」

その呼び方に、ローズマリーは違和感を覚えた。

何かがおかしい……。

「私が星府軍に入隊したのは、決してカイン様にお仕えするためではない。この星の覇権を手に入れるためなのですよ」

アレクセイは不敵な笑みを浮かべた。

「ずっと機会を伺っていました。……都合よく、“カイン様はご病気になられた”。だから“カイン様の名を語り、動き出した”。“私の野望を知った国々は滅ぼした。そして私の意のままになる国だけを残してきた”。そして……“私がこの星の覇王となる”」

「元帥……!」

兵たちが驚きの表情でアレクセイを見上げる。

彼らは知っていた。

皇帝陛下がここ最近、『玉座の間』から一歩も出ていないことを。

騎士や護衛官はもちろん、侍女たちですら近づけないことを。

そして、部屋に近づいた者が、すべて“帰って来ない”ことを。

セルティア攻撃の際、魔族を操っているように見えたのは、このアレクセイだということを。

兵たちは、見聞きし、知っていたのだ。

彼らの中で、まさかという思いが、はっきりとした現実へと変わっていく。


『……何を言っているの、アレクセイ』

声を震わせながらローズマリーは祈りにも近い気持ちで訊ねた。

そんなことはない。

そんなことがあるはずがない。

──そう、彼女だけが信じたかった。