Faylay~しあわせの魔法

そう思いながらも命令に従うのは、忠を尽くすアレクセイがいるからだ。

兵士たちが忠を尽くすのは、たったの5年で星府軍元帥にまで自力で登りつめた、アレクセイなのである。

しかし今、初めて彼に疑問を抱いた。

彼は──アレクセイは。

異様なほどに微笑んでいた。

いつもの鉄面皮を崩し、妖しく、微笑んでいたのである。

情報では、あの都に皇后陛下もいるはずである。それなのに、彼は微笑んでいる。慈悲のかけらも見えないのは、惑星王ではなく、元帥閣下の方ではないのか──。

管制室に、星府軍内部に、疑念が渦巻く。


やがて艦は王都上空へ差し掛かかった。

ゆっくりと高度を下げていき、黒い雲を突っ切って雨に濡れる美しい街並みを捉えた。

「主砲エネルギー、充填完了」

オペレーターの声に、アレクセイは唇の端を上げた。

「撃て」

無慈悲な声とともに、ティル・ジーアの砲筒が光を湛え始める。

みるみる膨れ上がったそれは、アライエル王城の青い屋根目掛けて一直線に放たれた。

激しい波動は雷のごとくヴァルトの街に襲い掛かったが、それは見えない防御壁によって弾き返された。

「主砲の出力を上げろ」

「ですが、これ以上上げれば、街は木っ端微塵に……」

オペレーターは言いかけたが、アレクセイの氷のように冷たい瞳に気圧され、モニターに向き直った。

すると、王都の軍基地からいくつもの青い飛行艇が舞い上がっていくのをレーダーが補足した。

それはみるみる戦艦を取り囲むが、攻撃してくる様子はない。