しかし、何故誰もそのことを知らなかったのだろうか。
いくら千年も前にあった出来事だとはいえ、精霊、魔族、両方の王が不在であるなどと、誰からも聞いたことがない。
「それは、無駄な争いを生まないためかもしれないね」
ランスロットは言った。
「この世界に生きる三種族間の力のバランスを崩さないため、かもしれない。私の推論だけれどね」
「そうか……そうかもしれない」
フェイレイはランスロットの推論は正しいと思った。
精霊も魔族も、王が消えて自分たちの力が衰えてしまった、ということを知られるのは好ましくなかったはずである。それは、人に対しても。
フェイレイはランスロットの言葉を頭の中で整理してみる。
千年前も今と同じく、魔王は世界を滅ぼそうとしていた。それを止めた勇者ランスロットと、精霊王。
彼らは命と引き換えに、魔王から世界を救った……。
「あれ、じゃあ、『姫』って?」
「姫?」
「あんたのことを書いている『勇者伝説』っていう本があるんだ。そこには、勇者が『姫』を助けたって、書いてあるんだけど……」
「姫……ああ、彼女のことかな」
「彼女?」
フェイレイは思わずランスロットに掴みかかった。だが、実体を持たないらしい彼の身体はフェイレイを受け止めることはない。
するりと白い甲冑をすり抜けて、ベッドにばふん、と倒れこんだ。
「私は実体がないから、気をつけて」
「あはは、そっか、そうだよね」
フェイレイは笑いながら起き上がり、またランスロットに向き直った。
「それで、姫って誰のこと?」
いくら千年も前にあった出来事だとはいえ、精霊、魔族、両方の王が不在であるなどと、誰からも聞いたことがない。
「それは、無駄な争いを生まないためかもしれないね」
ランスロットは言った。
「この世界に生きる三種族間の力のバランスを崩さないため、かもしれない。私の推論だけれどね」
「そうか……そうかもしれない」
フェイレイはランスロットの推論は正しいと思った。
精霊も魔族も、王が消えて自分たちの力が衰えてしまった、ということを知られるのは好ましくなかったはずである。それは、人に対しても。
フェイレイはランスロットの言葉を頭の中で整理してみる。
千年前も今と同じく、魔王は世界を滅ぼそうとしていた。それを止めた勇者ランスロットと、精霊王。
彼らは命と引き換えに、魔王から世界を救った……。
「あれ、じゃあ、『姫』って?」
「姫?」
「あんたのことを書いている『勇者伝説』っていう本があるんだ。そこには、勇者が『姫』を助けたって、書いてあるんだけど……」
「姫……ああ、彼女のことかな」
「彼女?」
フェイレイは思わずランスロットに掴みかかった。だが、実体を持たないらしい彼の身体はフェイレイを受け止めることはない。
するりと白い甲冑をすり抜けて、ベッドにばふん、と倒れこんだ。
「私は実体がないから、気をつけて」
「あはは、そっか、そうだよね」
フェイレイは笑いながら起き上がり、またランスロットに向き直った。
「それで、姫って誰のこと?」


