Faylay~しあわせの魔法

ビュウ、と強い風に煽られて空を見上げる。青い山脈の向こうから、ジリジリと暗雲が迫ってきていた。

「雨が降るかもしれんな。そろそろ城に戻らんか」

イライザの声に、全員頷いてゆっくりとした歩調で廃殿を出て行く。

だがフェイレイだけはふと、勇者の像を振り返った。

あっという間に空を覆い尽くしてきた暗雲の中から、一筋の光が勇者の像を照らし、キラキラと輝かせていた。

そして。

その勇者の像の前に、金色の長い髪をひとつに束ね、白い甲冑を纏った青い目の──ランスに良く似た青年が、静かに佇んでいた。

「……誰、だ?」

まったく気配を感じなかった。こうして対峙している今も、何も感じない。

何者だ?

そんな疑問を抱きつつ、フェイレイの視線は青年から勇者の像へ移っていた。

「まさか」

そう呟いたとき、白い甲冑の青年に穏やかな笑みが浮かび、その身が白い光に包まれた。

それは一気に小さな光へ姿を変えると、フェイレイに向かって閃光の速さで飛んできた。

それは身体にぶつかった瞬間に、ぱあん、と弾ける。

「──!?」

思わず手を翳して目を細めたが、ゴウ、と強い風に身体が弄られただけで、他には何の違和感もなかった。

「……何だ?」

首を傾げつつ、ますます暗い雲に覆われていく空を見上げ、仲間たちのもとへと急いだ。