Faylay~しあわせの魔法

「うん。優しくて、強くて……人に勇気をわけてあげられる人だよ」

「……そうかな」

フェイレイは少しだけ頬を染めて、それからまた、勇者の像を見上げた。

この人のように、誰かを護り、人々に勇気を与えられる。そんな存在になれていたら、本当に嬉しいと思う。

「そうだといいな」


白い雪を冠する青い山脈から吹き降ろす風は、優しい陽の中にあっても少し肌寒いものであった。

だからなのか、生き物の気配があまりない。

ただ静かに、風の通り過ぎる音が森の中に響くだけ。




リディルは勇者の像を眺めるフェイレイに微笑みかけると、くるりと踵を返して神殿内を歩き始めた。

ひんやりとしていて、厳かな空気に包まれた朽ちた神殿。それを囲む広大な森。

薄雲のかかる青空からは、優しい陽の光が降り注いでいるのだが──リディルは、ほんの少しだけ眉を顰めた。

セルティアにいた頃から感じていた、精霊たちの異変。

それは本当に小さなもので、心を研ぎ澄ませていなければ気づくこともない異変だったのだが……。

この国に来て、それが顕著に現れ始めているを感じた。

静かな空間をゆっくりと見渡しても、精霊たちの姿がない。

王都ヴァルトに入る前までは、チラチラと木陰から顔を出しては、人懐こい笑みを見せていた精霊たちが。

この神域とされる森の中には、まったくいない。

魔族の蹴撃に恐れをなし、隠れてしまったのだろうか……。