Faylay~しあわせの魔法

「ええええええ!?」

フェイレイの驚きの叫びが客室内にビリビリと響き渡った。

「……そんなに驚くことか」

シルヴァは眉を顰めた。

「だって! 公爵家令嬢だって!」

「シルヴァ=ブランデルは、私の従姉妹なのだ」

「従姉妹!?」

「私はアライエル国第五王女、イライザ。シルヴァは私と同じ年で、顔も似ている。犯人を捕まえるならこの期しかないと思って、ユージンに少々無理を言って城を抜け出し、シルヴァに成りすまして歩き回っておったのだ」

「それであんなに名前を連呼していたのですか……」

ヴァンガードは静かに納得する。

少し違和感がするほど、シルヴァ──いや、イライザは自分の名を主張していた。

「ユージンって?」

リディルが訊く。

「ああ、今馬を引いている者のことだ。シルヴァの執事がセバスチャンと言ってな。私の騎士、ユージンに化けてもらったのだ」

後ろを振り返って小窓から御者を覗いてみると、初老の細面のセバスチャンは、いつの間にか短い茶髪の、精悍な顔つきの青年に変わっていた。

「どうりで老人の動きじゃないと思った!」

フェイレイも納得する。

「ユージンめ。いつものように私を『姫』と呼ぼうとするから、いつバレるかと肝を冷やした」

イライザはふう、と溜息をついた。

「まあ、そんなことだろうとは思いましたけれどねぇ」

ローズマリーはイライザの隣から、彼女の頭上にある銀の紋章を見つめた。

獅子の顔を持ち、鷹の翼を広げた獣を模ったそれは、アライエル国の紋章だ。