Faylay~しあわせの魔法

《あまり、無理をするな》

鋭い赤い瞳には、慈愛が見える。

《そなたはまだ目覚めたばかり。本来ならば何年もかかるところを、たったの数日でモノにしようなど、土台無理な話なのだ》

リディルはそれを聞いても、女王を還そうとはしない。

震える身体をなんとか地面に立たせ、向かってくる敵を見据える少女の姿に、ティナの女王は憂いた。

《……我々も、今は精霊士<マスター>の力なしでは何も出来ぬ。……すまない》

女王の口から出る謝罪の言葉に、リディルは顔を上げた。

「力を合わせれば、頑張れるよ」

苦しそうに肩で息をしながら、リディルは静かにそう言った。

「それに……助けに行かなくちゃならないから」

背後にあったはずのフェイレイの気配が、黒煙にすっかり遮断されてしまっていた。

それを肌で感じ取り、リディルはグッと拳を握り締めたのだ。

「早く、あの人、倒さなきゃ」

ティナの炎を食いつぶすように進んでくる、黒い羽根を広げた女。それを押し返そうと、リディルは右手を掲げた。

その掲げた掌の向こうに、女の背後に回りこむヴァンガードの姿が見えた。

「……ヴァン、平気?」

『はい! 行けます!』

インカムから聞こえてくるしっかりとした声に、リディルは頷く。

「じゃあ……行くよ」

身体中に凄まじい圧力がかかるのを感じながら、リディルは一気に魔力を放出した。