Faylay~しあわせの魔法

「……リディル!」

女王を召喚するつもりだ。

彼女たちの相手にしている魔族も相当な手だれだ。そのくらいしないと倒せないのだろう。

だが……。

「……フェイレイくん、急いで」

まだ道化師との戦闘を続けているフェイレイに向かって呟きながら、自分も大男に向かっていった。





どうやっても斬りつけることの出来ない道化師を前に、フェイレイは焦りを感じていた。

どういう身体の構造なのかさっぱり分からないが、まるで剣の軌跡を読んでいるかのように、道化師は身体を分散させてそれを避けていた。

胴体に限らず、腕でも、足でも、首でも。

斬られる前にぱくりと割れてしまう。そして何事もなかったかのように元通りになるのだ。

「……読まれてるのか?」

自分の動きを。

心の中を覗き見ることの出来る能力でも持っているのだろうか……。

「そう、その通り」

道化師は低い笑い声を響かせた。

「キミの動きは手の取るように分かります。だから僕を倒すことなど不可能なのですよ」

道化師は夜風にそよぐ牧草に靴裏をくすぐられる高さにふわふわと浮いて、小首を傾げて不気味に微笑んでみせる。

「……ズルイな」

フェイレイは口をへの字に曲げる。

いくら無心で斬り込んでいっても、無意識に次にどう攻めるかは考えるものである。それを全部読まれているとなると……打つ手はない。