Faylay~しあわせの魔法

ガクリと膝をついた大男の目の前に飛び出し、眉間に掌底を叩き込む。

「グアッ」

大男は小さく呻いて、眩暈を起こして後ろに倒れた。

それを更に追撃し、膝で鼻をへし折る。

それで目を回して起き上がれないほどのダメージを与えたつもりだった。しかし、大男から飛び退ろうとしたローズマリーの足首を、大男の大きな手が掴んだ。

「っ!」

ローズマリーの身体は軽々と振り上げられ、そのまま地面に叩きつけられる。

頭だけは腕で抱えて護ったが、何度も何度もたたき付けられれば、身体へのダメージは大きい。

何十回と地面に叩きつけられて、やっと足首を離されたときには、ローズマリーの身体は力なくゴロゴロ地面を転がっていった。

大男はブンブンと首を振り、顔を顰めた。

「うう……痛い」

グラグラと回る目は、ローズマリーの攻撃の強さを物語っていたが、そのローズマリーも地面に転がったまま動かない。大男の力も相当なものだった。

「こ、の……馬鹿力……」

げほ、と一回咳き込んでから、手に力を入れ、バッと立ち上がる。

唇から流れ落ちる鮮血をグイと拭い、大男を睨み据える。

「相当な石頭だな。あれで動けるとは」

拳を作ろうとして、指に力が入らないのを感じた。

何度か震える指を動かし、ギュッと握り締める。

どれだけダメージを与えれば動きを止められるのか──その間に何度反撃を食らうか──イメージが脳内を駆け巡る。

ふと、辺りの空気が酷く静かに凪いでいくのを感じた。