Faylay~しあわせの魔法

「……なるほど。どうりで硬いわけだ」

ジンジンと痛む拳をギュッと握りなおす。赤いグローブがギリギリと小さく音を立てた。

「お前も、強いな」

大男は嬉しそうに笑う。強面の顔が、醜く歪んだ。

「汚ぇツラ見せてんじゃねぇよ」

ローズマリーは低く構え、ふっと息を吐き出した。

それとほぼ同時に地面を蹴り、大男の斧目掛けて渾身の回し蹴りを繰り出した。

踵から足を振り落とすも、それは硬い斧の刃に弾き返される。

「フン、これも硬いな」

と、腹の底に力を入れ、全身を赤い“気”の膜で覆う。

大男が振り回す斧をひょいひょいと避け、素早く懐に飛び込む。そして掌底を思い切り腹に叩き込んでやった。

「グフッ!?」

金剛よりも硬いはずの身体の中を、激しい“気”の渦が駆け巡り、内臓を揺るがした。

ふらついたその一瞬で足を蹴り上げ、大男の持つ斧を遥か遠くまで弾き飛ばす。

「グアアア!」

怒りに瞳を赤くした大男は、ローズマリーの細い体を薙ぎ払った。

斧を短剣のように振り回すだけあり、その動きはまさに神速。ローズマリーでも避けきれず、かろうじて腕を掲げて身を護り、その恰好のまま牧草の上を削るように飛ばされた。

くるりと身を捻り、ザザザ、と草をなぎ倒しながら着地する。

すぐに顔を上げ、大男がズンズンと地を揺らしながら向かってきているのを確認し、拳に“気”を送り込んで地面を突く。

地を走りながら伝達していった“気”は、大男のすぐ目の前で爆発し、彼の足元を掬った。