Faylay~しあわせの魔法

「私は『あんた』などではない。『シルヴァ=ブランデル』である。無礼者め!」

「無礼はあんただ! 人の優しさを受け入れられないヤツに、身分を誇る資格なんかない!」

「お、お待ちください!」

睨みあうフェイレイとシルヴァの間に、執事が入ってくる。

「すみません、ひ……お、お嬢様の非礼は、私が謝ります故、ここはどうか、お引取りを……」

「あんたが謝ったって仕方ないだろ? この人が謝らないと!」

「なんだと! このシルヴァ=ブランデルに意見すると申すのか、下賎の者が!」

「ひ、お、お嬢様!」

執事が冷や汗をかきながら、その場を収めようと両手を挙げ、オロオロしている。

周りにいた宿の客たちも騒ぎにざわつき、眉を顰めている。

「あんまり目立たないでくださいー!」

ヴァンガードが周りの目を気にしながら立ち上がる。

「どうしましょうか」

ローズマリーはリディルに視線をやる。

リディルは短く溜息をつき、すっと人差し指を上げた。

「ミンミン」

ポン、と、各テーブルに花の精霊が舞い降りる。

赤や黄色や青、色とりどりのドレスを纏った精霊たちは輪を作り、驚いて目を丸くしている客たちの頭上で手を取り合い、かわいらしい笑顔でダンスを始めた。

くるくると回るごとに花びらが舞い降り、それを見上げる者たちも笑顔にしていく。