Faylay~しあわせの魔法

「でも、それはヴァンが決めて。私には、ヴァンが本当はどうしたいかなんて、分からないよ。私は、ヴァンには危険な目に遭って欲しくないから、ここに残って欲しいと思うけど。でも、お父さんたちと離れる苦しみ、本当に分かるのは、ヴァンだけだよ」

俯いた顔を上げ、リディルを見上げる。

「もう少し、お父さんたちと話てみたら、いいんじゃないかな」

そう言葉を紡いだ後、僅かな間交わっていた視線は、リディルの方から外された。

ざく、ざくと、雪かきのされた小屋の傍を、再び歩き始める。

少しずつ遠ざかる背中に、ヴァンガードは静かに言葉を投げかけた。

「いいえ。僕が話したかったのは、貴女でした」

踏みしめる雪の音と、ひゅう、と通り過ぎる凍える風の音に、小さな声はかき消される。

「僕は貴女に、必要だって、言って欲しかったのかもしれません」

それは、祖父から受け継いだ意志からなのか。それとも、別なところからくる想いなのか。ヴァンガードは、はっきりと分かってはいない。

欲しかった言葉は貰えなかった。

けれども、彼女の優しさには触れられた。

揺れている心の中にひとつの決心をさせる、強さも貰った。

父も、母も、大切な人に違いない。けれども今は、自分の心のままに進んでみたかった。

「僕は、貴女を護ります」

はっきりと口にしたその言葉は、しっかりとリディルに届いた。

リディルは振り返り、心配そうに眉を寄せたけれども、ヴァンガードはそれを吹き飛ばすような、明るい笑顔を浮かべていた。