Faylay~しあわせの魔法

「……なんで?」

少しだけ寂しく思っていると、リディルが軽く溜息をついた。

「わかる、気がする」

そう言って、アックスを振り上げる。

それを見て、首を傾げながらもフェイレイはゆっくりと登頂を再開した。



頂上付近は垂直どころか、反り返っていた。

しかも積もった雪はあまり強度がなく、ボロボロと今にも崩れ落ちそうだった。

フェイレイはしばし考え込んだ後、リディルを見下ろした。

「俺を押し上げられる?」

「……なんとか」

リディルは呼吸を整えてから、そう答えた。

「なら、行ってみる。リディル、そこで待ってて」

ザク、とアックスを氷壁に突き刺し、動かないのを確認してから更に登り、アックスに足を乗せ、そこから一気に飛び上がった。

反り返った雪の壁に手をかけると、ボロ、と崩れたが、身体が後ろへ傾く瞬間、ゴウ、と風が背中を押し、更に足裏を押し上げた。

「ありがと」

礼を言いながら、頂上らしき硬い雪の上に転がり、僅かに呼吸を整えてから背中のリュックからロープを取り出し、灰色しか見えない空間へ放り投げた。

改めて辺りを見回すと、本当に何も見えない、灰の世界だった。

ウィルダスの防壁を潜り抜けてきた僅かな風が、冷たい雪をハラハラと舞わせているだけの静かな空間。

フェイレイはふー、と息を吐き出すと、仲間たちを次々と引き上げた。