Faylay~しあわせの魔法

「うん」

リディルはまた一息ついて、軽く頷いた。冷たい空気に喉をやられそうだった。肺が苦しい。

「駄目そうなら早目に言うんだぞ。おんぶするから」

「……平気。まだ」

細く息を吐き出しながら、風の精霊グィーネに魔力を送る。

遅れている下のメンバーを少しでも楽に登らせるためだ。そして、自分たちの背中も支えてもらい、両手をブラブラとほぐして休ませる。

寒さでその流れすら凍り付いてしまっているのではないかと思われる血流が、一気に流れ出して身体を僅かに温める。そんな感覚が全身に広がった。

しかしそれも一瞬のことで、すぐに身体の筋肉が固まってしまう。

ウィルダスに海風を防いでもらっているとはいえ、慣れない寒さはどんどん体温を奪っていく。

「ティナ?」

フードの中でブルブル震えるティナたちに声をかける。

《私たちは平気だ。寒いけど》

「大丈夫?」

《マスターの底なしの魔力がある限り、消えることはない。寒いけど》

《私たちが心配なのは、マスターの“体力”の方だ》

《馬鹿に背負ってもらえばいい》

《馬鹿は体力がある》

《馬鹿は役に立つ》

「……なんか聞こえるんですけどぉ~」

リディルの耳元で馬鹿馬鹿と連呼するティナたちの声は、フェイレイにまでしっかりと聞こえていた。