Faylay~しあわせの魔法

「あの……皇女殿下は失くされた記憶のことで、心を痛めておいでです。ですから……」

ビアンカがやんわりとリディルを庇おうとすると、ローズマリーは小さく頭を振った。

「こういうときだからこそ、ですわ。楽しい話題で気持ちを盛り上げなくては」

「楽しい話題、ですか?」

「そう。例えば、かわいらしい、小さな恋の物語、とか……」

ローズマリーの視線を浴びたリディルは、ふい、と顔を逸らす。

「ですが陛下、こんなときに……」

「ローズです」

ビアンカにそう訂正をしてから、ローズマリーは人差し指を出しながら話し出した。

「こんなときだから、と申し上げましたでしょう? 難局にあるときこそ、心穏やかでいなければなりませんのよ?」

「それは分かりますが」

ビアンカは少し困り顔。

それには見向きもせず、リディルは荷物の中からシュラフを広げ、就寝の準備を始めた。まったく会話に参加する気はなさそうだ。

「ビアンカさんのお話でもよろしいのですよ。オズウェルさんとのお話とか」

「わ、私の話ですか!?」

「ええ。よろしければお聞かせくださいな。今後の参考にさせていただきます」

「私の話など……」

「いいからいいから、お話なさい」

にっこりと微笑むローズマリーの口調は柔らかいのに、どこか有無を言わせぬ響きがある。