Faylay~しあわせの魔法

「普通は、多少なりとも魔力を持っているものなのですけれどね……魔力がゼロってことはないでしょうし、そんなに精霊に好かれているのに、不思議な方ねぇ」

ローズマリーはリディルの召還したティナ2人が、フェイレイの両頬にぺったりとくっついているのを、不思議そうに見た。

「ローズさんも出来るんだ」

「一人、二人くらいはお越しいただけますよ。私、魔力がほとんどありませんの。でも……それにしても、不思議ねぇ」

ローズマリーの訝しげな視線に、アリアの言葉を思い出した。

『決定的に知性が足りない』

あまり見られていると、馬鹿だ、馬鹿だと言われているようで、少し哀しいフェイレイだった。



そうして船を下り、ビュウビュウと海風が容赦なく横から殴りかかってくる中、通信機が照らす地図を頼りにゆっくりと進む。

フェイレイを先頭に、すぐ後ろをリディル、ローズマリー、エインズワース親子と続き、最後尾を務めるオズウェルが荷物を積んだソリを引っ張って歩いた。

すぐ前を歩いている人さえ見えなくなる猛吹雪のため、遭難しないように全員をロープで繋いでいる。

カチカチに凍った流氷の冷たさは、ブーツを通して足から全身へと這い上がってくる。首元で震えるティナの、ほんのりとした温かさがまさに命綱だった。

「ティナも寒いんだ」

温かい体をプルプルと震わせているティナたちは、フェイレイの言葉にもそもそと動いた。

《さむい》

《私たちの天敵だ》

ティナたちはコートの隙間から顔を覗かせ、恨みがましく白い精霊たちを見上げた。