リディルのことばかり気にしていたため、うっかり自分も薄着であることを忘れていた。

波の上を渡ってくる風はすでに冬の温度で、シャツ一枚でいるには寒すぎた。

おかげでせっかく訪れたチャンスは見事に砕け散ってしまった。

生理的現象なのだから仕方ないといえば仕方ないのだが、あまりにも情けない。

2人で毛布にくるまって暖をとる。これこそ絶好のチャンスであるはずなのに、先程のくしゃみで膨れ上がった勇気はどこかへ飛んでいってしまった。

「あったかいね」

少しだけ哀しげな笑顔でそう言うと、リディルも頷いた。そうして、冷たい風の吹き荒ぶ中、静かに海を眺める。



寒いから船室に戻ろうとは、互いに言い出さない。

こうして、まだ2人だけの時間を過ごしていたい。そんなことを願いながら寄せる肩は、こんなにもぬくもりを感じているのに。

想いを通じ合わせるのって、難しい。


けれど、いつか。


紺色の海にかかる白い道の先にある、まあるい月に。

この想いが届きますようにと、願いをこめた。