Faylay~しあわせの魔法

「あのさ」

「うん」

「お母さんのこととか、ヴァンのじいちゃんのこととか、色々ショックな話ばっかりで、悩んだり苦しかったり……する?」

「……少し、ね」

「そういうときはさ!」

フェイレイは海からリディルへと視線をやった。

「こうやって一人で悩んでないで、ちゃんと言ってよ。そりゃ、俺は記憶喪失になんかなったことないし、別に辛い思いしてきたわけでもないし、リディルの気持ちなんかこれっぽっちも分かってやれないんだろうけど。それでも、俺……リディルが辛いのは、嫌だからさ……」

リディルは視線だけをフェイレイへ向けた。

捨てられた子犬のように情けない顔で、けれど真剣な眼差しを向けてくる彼に、リディルは唇をたわめた。

「ちょっと、違う」

再び暗い海へ視線をやり、リディルは呟く。

「私……何も覚えてないから。話を聞いても、全然、ピンとこなくて。お母さんのことも、ヴァンのおじいさんのことも……惑星王のことも。全然、思い出せないから……。薄情だな、って……思ってた」

「そんなことない」

フェイレイは首を振り、縁に置かれていたリディルの手を取った。

「覚えてなくても、心は傷ついてるんだ。だから怖い夢も見たし、大人の人も怖かったんだろ? 本当に忘れてなんかないから、今も……」

顔を歪めるフェイレイに、リディルは少しだけ目を細め、体ごと彼の方を向いた。