Faylay~しあわせの魔法

「貴方のお話を聞いて、更に確信しましたわ。あれはカインではない」

空になったグラスをギュッと握り締める。

「カイン様ではない? じゃあ、今皇都にいるのは?」

「分かりません。彼が何者なのか、検討もつきませんわ。でも……カインなの。カインではないけれど、カインなのよ。……まるで何かにとり憑かれているような……」

その自分の言葉に、ローズマリーは手ごたえのようなものを感じた。

何かにとり憑かれている。

何故今までそのことに気付かなかったのか。

今までのカインの様子を辿っていけば、すぐにも出そうな答えだったのに。

「一体、何に……?」

十代の頃から皇宮の改革に着手し、それを見事にやり遂げた確固たる意志と強靭な精神力を抑えてしまうほどの『何か』が、彼にとり憑いているのだとしたら。

「何か恐ろしいものに憑かれているのよ。だから、あんなに怯えて……」

「何だか良く分かんねぇけど、あんたがそう言うのならそうなんだろう。……カイン様……」

ブラッディも10年前に別れたきりのカインを想いながらグラスを空けた。

宰相が何も起こさず、自分かクライヴのどちらかでも傍に仕えていたならば、こんな事態にはならなかったのではないか……そんな、思っても仕方のないことを頭の片隅で考えてしまう。

「カインの身体を使って何をするつもりなの……世界の崩壊? そんなこと、させられないわ」

「ああ、そうだな。俺の知っているカイン様が願うのは、世界の安寧だ。決して破壊ではない」

ブラッディも力強く頷いた。