Faylay~しあわせの魔法

ローズマリーはボトルのラベルを愛しげに指でなぞった。

「『海のしずく』。……私のことですって」

「ああ、『ローズマリー<海のしずく>』な。燦々と輝く太陽の光を受ける大海が落とした、あたたかな雫。そういう酒だよ。そうそう、ローズマリーの花言葉な、愛、だったよな。青系の多い花だが、この酒は桃色だ。花言葉を意識してんのかな。あんたのためにカイン様が選んだのが分かるよ」

「女性が喜びそうなことをおっしゃるのね」

「そりゃあな。女を喜ばせるのが男の生きがいってモンだろ」

「……カインが誰の影響を受けたのか、分かった気がします」

ふふ、とローズマリーは微笑み、テーブルの上にボトルを置いた。

グラスに手を伸ばし、桃色の液体の向こうに蘇る、3年前のカインの微笑みを見る。

政務が忙しく、体調も思わしくなさそうだった。

それでも必ず1日のうち、僅かな時でもローズマリーと2人の時間を作ってくれた。3年前、18で成人を迎えたときも。

国や世界中が祝いの宴を催してくれたのとは別に、たった2人で差し向かい、祝いの言葉をくれた。

嬉しかった。

大事に想ってくれていることを、言葉できちんと伝えてくれる彼の誠意が。

民間人、しかもギルドの傭兵であるローズマリーが皇宮に入ることを、良く思わない者達は少なからずいた。けれどもカインの愛は、それすら跳ね除けてしまっていたのだ。

ずっと彼の愛に支えられ、護られてきた。

なのに……。

「私の太陽は、今でもカインですわ。だから彼を選んだのですもの」

くい、とグラスを傾けて、桃色の液体を飲み干す。