Faylay~しあわせの魔法

「皇后様はイケる口だろ?」

オレンジがかった薄い桃色の液体は、くるりと円を描きながら透明なグラスを彩っていく。

ローズマリーは軽く微笑み、「いただきますわ」とグラスを持ち上げた。

「あんたのために選んだ酒だ」

「まあ……ありがとうございます」

ローズマリーは目を細め、含み笑いをする。

2人は互いの中央でグラスを掲げると、軽く口に含んでその香りを楽しんだ。

「……懐かしい。太陽の香りですわね。ふふ、フェイレイくんみたい」

「フェイレイ?」

「そう。あの子は太陽だわ」

「……リディアーナ様にとって?」

「そうね。だから、フェイレイくんがいれば、リディアーナは大丈夫。太陽のあたたかな光で、蘇る」

コクリ、と喉を鳴らし、ローズマリーは哀愁漂う笑みを広げる。

「あんたはどうなんだよ」

「……私?」

「これはあんたのために選んだ酒だって言っただろ。あんたの太陽はどこにある?」

ブラッディはローズマリーがカインの話をするときに、時折憂いの表情を見せることに気付いていた。

ローズマリーはグラスの中で揺れる桃色の液体を見つめる。そして、ふっと笑みを浮かべた。

「このお酒、成人祝いにカインから贈られましたわ」

「はっは、そうかよ」

「お酒の好きな護衛官に、銘柄を叩きこまれたのですって。……貴方のことでしたのね」

「おうよ。カイン様、俺の教えを覚えていてくださったか」