Faylay~しあわせの魔法

「ヴァンは? 何してた?」

と、隣にいるヴァンガードに声をかける。

「僕ですか? ……ギルドに入ったばかりでしたよ。精霊士になれないことが分かって、史上最悪に落ち込んでいた時期です」

憮然として答えるヴァンガードに、その隣に座るビアンカが悲しげに眉を寄せる。

「本当に、辛い思いをさせましたね」

ビカンカはヴァンガードの頭を抱え、自分の胸に引き寄せる。

「え、い、いえ……母上にも、思うところがあったのですから……」

愛されることに慣れていないせいなのか、ヴァンガードは顔を赤くして照れている。

それを微笑ましく見守っていると、ブラッディの声が響いた。

「ったく、何だってこんな事態になってんのかなぁ。皇后様の聞いたその女の名前とやらに鍵があったりしてな?」

冗談めいたブラッディの言葉に、ローズマリーは目を据わらせる。

「女のためにカインが変わったとでも? もしそうなのでしたら、私……」

バキバキと拳を鳴らすローズマリーに、ブラッディは苦笑する。

「まさか、そんなことあるかよ! あのカイン様に限って……。つか、女の名前じゃなかったんだろ?」

「ええ、もちろんですわ。ティターンとか、ティアーニャとか、そんな感じの」

「……陛下、それはもしかして……『ティターニア』では?」

オズウェルが訊ねる。

「ああ、そうかもしれません。……え、ティターニア?」

ローズマリーが何かに気付いたように顔を上げると、オズウェルもブラッディも、安心したように笑った。

「そりゃ寝言にでも出てくるさ! ティターニア。精霊を束ねる女皇様だ!」

「精霊士としても研鑽を積んでいた惑星王のことです。きっと夢の中でも」