「あのとき何が起きたのか、覚えている者は誰もいない。この俺を含めてな。ただ、今でもこの耳に残ってるよ。リディアーナ様の、あの、悲痛な叫び声が」

ブラッディの話を静かに聞いていた6人は、話が終わっても誰も言葉を発しなかった。

全員の視線がリディルに注がれたが、彼女はテーブルの上をジッと見つめているだけで、身じろぎひとつしなかった。

何を想っているのか、表情からは読み取れない。

ブラッディは全員の顔を見渡し、ふう、と一息ついた。

「何か、質問は?」

その問いに少しだけ間を空けた後、オズウェルが口を開いた。

「貴方は、その後、どうされていたのだ」

「ん? 俺か? 俺はそのままトンズラこいた。星府軍からはリディアーナ様誘拐、及び反逆の罪で追われていたからな」

「カインのもとへは、帰らなかったのですね」

ローズマリーが口を挟む。

「ああ。星府軍からすれば、俺はカイン様に背いて反逆者に加担した裏切り者だ。そんなヤツとカイン様が繋がっていると知れれば、カイン様の立場が危うくなるからな」

「貴方は、それで良かったの?」

「良くなければ、初めからカイン様に手を貸したりしなかったさ」

ブラッディはニイ、と歯を見せて笑う。

「俺は好きだったんだ。カイン様も、リディアーナ様も。ジイさんも、シャンテル様も、な。海賊になったのは、たまたま俺を拾ってくれたのがここの元船長でよ。星府軍に追われて──ああ、これ、これはそんとき、やられたんだけどな」

船長は黒い眼帯で覆われた左目をとん、と指で叩く。

「野垂れ死にするところだったのを助けてもらった恩に、ここらへんの海賊を束ねる手伝いしてやったら、なんか気に入られちまって。で、今に至る」