Faylay~しあわせの魔法

「どういうことだ!」

カインは激昂した。

「皇女殿下を利用して、宰相はクーデターを起こすつもりなのです!」

皇帝陛下が崩御して僅か1日。

葬儀も行われないうちに、宰相は事を起こした。

全世界に向けて、リディアーナを皇帝に据えると宣言された。

途中で通信は断ち切ったので、皇都で内紛が起ころうとしていることを世間に晒すことはなんとか阻止したものの、皇宮に仕掛けられていた爆弾が爆発し、それを合図に戦は始まってしまった。

「最悪だな」

サイラスは舌打ちした。

「リディアーナはまだ7歳だぞ。それを、こんなことに利用するなんて!」

カインはギリリ、と歯噛みした。

彼女たちが誘拐されてから、実に3週間が過ぎているということにも憤りを隠せなかった。

皇帝陛下の妾腹の皇女としてではあるが、皇宮ではリディアーナの存在は認知されていたし、保護されているはずだった。なのに報告がこうも遅れるとはどういうことなのか。

宰相の手が回っていたせいもあるのだろうが。

自分がまだ年端も行かない、未熟な皇太子だから、報告などしても大した手も打てないと判断されたのか。

カインはそれが悔しかった。

穏やかな空間で、温かく迎えてくれた2人の笑顔が、遠く、霞んでいく。



「カイン様。こうなれば、早々に戦を収め、リディアーナ様を助け出す他ありません」

クレイヴの提案に、周りにいた将校たちは意義を唱えた。

「何をおっしゃいますか! 利用されたとはいえ、皇女殿下は犯罪者の立場ですぞ。それを見逃して、民に示しがつくというのか!」

「そうです。これは皇家の威信にも関わることなのです。情けをかけてはなりません。不穏分子は綺麗に片付けてしまわねば」