Faylay~しあわせの魔法

クライヴたちが見守るカインは確かに、普通の少年に戻っていた。

真剣に魚を追いかけ、足を滑らせて転んでびしょ濡れになり。

リディアーナに笑われて、一緒に声を上げて笑う。そんな姿は皇宮でも、諸外国訪問時にも見せたことがない。

「ふん……まあな。いいんじゃねぇの、こういうのも。俺も退屈しなくていいわ」

「ほっほっほ。私も孫を見ているようで、心が休まるのだよ。ああ、孫と言えば、この間我が家にも待望の孫が生まれてね。ヴァンガードというのだ。将来はエインズワースを継がせるのだと、息子が張り切っておってな。ほれ、見てみろ。かわいいだろう? 孫というのはほんに、目に入れても痛くないほどかわいいな」

と、クライヴは孫の写真をサイラスの目に押し付けた。

「いてててて、俺はいてぇっつーの!」



そんな風に、穏やかで、優しい時間が過ぎていた。

けれども、見えない敵は、用意周到にその機会を伺っていた。

気付かれないように、皇帝陛下の食事に少しずつ毒を盛り、時間をかけて弱らせていった。

皇帝陛下が床に臥せったとなると、皇太子であるカインに回ってくる仕事が山のように増えた。

常の政務から、ここ数ヶ月で急に増加し始めた魔族、対照的に激減した精霊、そして起こり出した自然災害への対応。

これらに追われ、唯一の安らぎの場所であるリディアーナのもとへは行けない日々が続いた。

宰相が何か良からぬことを企んでいる。

そうカインのもとへ報告が来る頃には、事態はすでに止められないところにまで来ていた。


──リディアーナとシャンテルが、攫われた。