Faylay~しあわせの魔法

水車をゆっくりと回す小川で、2人は歓声を上げながら魚を追い回した。

「おにいさまー! リディアーナ、5こ~!」

両手で魚を掴んで、リディアーナはピンクのバケツに魚を放り込む。

「何、もう5匹? リディアーナは凄いな」

ほとんど自然の中で遊んだことのないカインに、魚を手掴みすることは至難の業だった。

小石の転がる川の中を裸足で歩くことも初めてで、リディアーナがパシャパシャと駆けて行くのに対し、ヨロヨロと今にも転びそうである。

そんな2人を遠くから眺めながら、サイラスはクライヴに訊いてみた。

「ジイさん。俺をカイン様の護衛官に指名したのはアンタだってな。なんで俺を? 問題ばかり起こす将校なんぞ、皇太子様の傍に置くのは危険だとか思わなかったか?」

その質問に、クライヴはほっほ、と軽く笑う。

「目に見える問題を起こす者など、かわいいものよ」

サイラスは面白くなさそうに眉を顰めた。

そんな彼に、クライヴは唐突な質問をしてきた。

「お前は、あれを見てどう思う?」

「は? ……ああ、微笑ましいけど」

「ほほ、だからお前を選んだのだ」

「……は?」

「他の者なら、あれを見て微笑ましいとは思わんよ。危ないから、汚れるからやめろと、止めてしまうだろう」

「ああ、まあ……そういう連中ばっかりだよな。肩凝んだよ、皇宮にいるとさ」

だからカインが諸外国訪問を始めたとき、サイラスはほっとしたのだ。

最近では皇帝となることを視野に入れられ、その外国訪問にも制限がつきはじめたが。

「恐らく、カイン様もそう感じておられる。決して口には出さぬがな。私は、カイン様には息抜きが必要だと考えている。周りの期待に応えようとするあまり、ご自分の身も省みず努力されるお方だ。……このように、普通の少年のように笑える場があっても、良いとは思わんか?」