Faylay~しあわせの魔法

「リディル」

気がついたら、目の前にフェイレイの顔があった。

酷く心配そうに顔を歪めている彼の瞳からは、今にも涙が零れ落ちそうだ。

「……フェイ。どう、したの……? 誰かに、いじめられた?」

リディルは言いながら、そんなことはないのに、と思った。

昔のフェイレイは、周りの子達よりも成長が遅く、よく苛められていた。けれど誰よりも努力して強くなった彼が、苛められることなど、もう、ないのに。

フェイレイは微かに笑って、ゆっくりと首を振った。

「平気だよ。リディルは……平気?」

「……怖い夢、みたよ」

「怖い夢?」

「うん。でも……もう平気。フェイがいるから……」

「……そう?」

「うん」

暗闇をも吹き飛ばす、あの温かい風景を思い出す。

幼い頃にフェイレイに見せてもらった、美しいセルティアの風景。リディルの記憶が始まった、あの場所。

あの風景は今でも、“何か”に怯えるリディルを、優しく包み込んでくれている。

ずっと手を引いて前を歩いていてくれる、フェイレイとともに。



「……眠った、みたいね」

穏やかな顔で瞳を閉じるリディルを見下ろし、ローズマリーが言った。

「うん」

ほっとしたようにフェイレイも、瞳を閉じる。そしてグラリと身体を傾けると、ローズマリーの足元に転がった。