Faylay~しあわせの魔法

遠くなのか、近くなのか分からない。

まったく光のない闇の中、ぼうっと光る大きな白い手がひとつ、空を彷徨っていた。

「っ……」

思わず息を呑む。

自分はその手のもとに手繰り寄せられている。そのことだけがはっきりと分かった。

心臓が重く、冷たく揺れ動く。

「だめ……」

あの手に掴まったら、“戻れなくなる”。

何故だかそう思い、身を捩って黒い糸から逃れようとした。だが拘束がきつくなり、苦しさが増すばかりでどうにも出来なかった。

どんどん近づいてくる白く、大きな手。

「嫌だ……」

リディルの真上にきた白い手は、恐怖で浅い呼吸を繰り返しているリディルに気付いたかのように、ピタリと動きを止めた。

そして、ふわりと、降りて来る。

「嫌だ」

掴まりたくない。

(私は)

帰りたい。

「フェイ」

彼のもとへ。

「フェイ、たすけて!」