「見ろ」

と、暗い海の先を指差す。

舳先に飾られた木彫りの海の女神像の先から、細い鉄骨が伸びていた。長さにして、およそ10メートルくらいだろうか。

「あそこが、俺たちの決闘場だ」

「あそこって……あの細い鉄骨の上?」

「そうだ。ルールは簡単。どちらかを海に叩き落した方の勝ちだ。ただし……」

ザバア、と波飛沫が高く上がり、ひゅ、と空を何か大きなものが通り過ぎていった。そしてまた海に沈む。

「今のは」

「クラーケン」

船長は不敵な笑みを浮かべながら剣を手にすると、幅30センチにも満たない鉄骨の上に飛び乗り、スタスタと歩き出した。

そこにまたクラーケンの太い足が襲い掛かる。それを船長は素早く剣を振り、斬り落とす。

斬り落とされた足は宙を舞い、フェイレイの目の前にドスン、と音を立てて落ちてきた。

直径1メートルはあろうかという切り口と、赤黒い吸盤がヒクヒクと蠢いた。

「船長、今日のはヤバイくらいにデカいですよ!」

「ああ、この船の命運を分けるには丁度いい!」

ハハハ、と高笑う船長は、更に襲い掛かるクラーケンの足を斬り落とし、フェイレイを見下ろした。

「ここにはクラーケンがいる。この足を避けて、俺たちは戦うんだ」

「避けて……」

「見ての通り、こんな足に巻き込まれたら一発で終わりだ。海に落ちてもしかり。呑み込まれて終わりだ。つまり、生き残った方が勝ちってことさ」