Faylay~しあわせの魔法


それからも船は順調に航海を続け、陽が沈んでからおよそ6時間が経過した。

相変わらず空にかかる薄雲は、もうすぐでまんまるになる月明かりに照らされ、その形をくっきりと夜闇に浮かび上がらせている。

ずっと静かな夜の海を進んでいた船が、徐々に速度を落とし始めた。

「もうすぐ目的地でしょうか」

うとうとしているヴァンガードを肩に寄りかからせながら、オズウェルが呟いた。

「そうかもしれませんね」

そろそろフェイレイを起こすべきだろうか、とローズマリーが思った瞬間。

ガバ、とフェイレイが飛び起きた。

「あら、起きました?」

フェイレイはローズマリーの声が聞こえていないかのように、キョロキョロと視線を走らせた。

「なんかいる」

そして立ち上がると、船縁へと走っていった。

それを見て不思議に思う間も無く、ローズマリーも表情を険しくした。

「これは……」



暗い海の向こうから、大きな気配がしていた。

フェイレイは身を乗り出してその暗い海の先を眺める。

「……魔族だ」