Faylay~しあわせの魔法

「……あのときか」

アレクセイがフェイレイの首に剣をぴたりとあてがったとき。フェイレイの剣は自分の胸には届いていなかった。

届いていなかった……はずだ。

しかし、言われて初めて気付いたが、胸のあたりにピリピリとした痛みがあった。

皮膚を斬られている。

「……大丈夫です。ご心配ありがとうございます、皇女殿下」

アレクセイは鉄面皮の表情を崩し、柔らかく微笑んだ。

胸に手を当て、嬉しそうに……微笑んでいた。





自分の部屋に戻ったフェイレイは、フラフラとベッドに倒れ込んだ。

ギルドで働く者達に与えられた部屋は、ベッドと机とクローゼットとシャワー室がついただけの、狭いワンルームだ。

それでも、忙しくて寝るためだけに帰ってくるこの部屋の設備は、これで十分だと言えた。

ふかふかの枕に顔を埋め、目を閉じればリディルを思い出す。

護りたい。

けれども、セルティア国民を盾に取られているような現状で、どうやったら助け出せるというのだろうか。

『ありがとう』

そう言ってキスをくれた彼女の笑顔は、『さよなら』と言っているようだった。