Faylay~しあわせの魔法

少しずつ距離を取りながら、交わらせた視線だけで互いの力量をはかる。

今まで見たどの剣士より、黒衣の騎士の放つ気は洗練されていた。

(敵わない)

人間相手にそう思ったのは初めてだった。

「ヴァン、リディルと壁まで下がれ」

「フェイレイさん」

ただならぬ空気にヴァンガードは身を震わせたが、言われた通りにリディルの手を引いてエレベーターの前まで下がった。

「フェイ!」

後ろからのリディルの声を耳に入れながらも、フェイレイは騎士から目を離さなかった。いや、離せなかった。

一瞬でも隙を見せたら、斬られる。

騎士はそれほどの覇気をフェイレイに見せ付けていた。


騎士もまた、フェイレイから目を離さなかった。

彼が噂に聞く『セルティアの英雄』なのだろうと一見して解った。

『英雄』と謳われるには年若すぎるので、その人柄で呼ばれているのだろうと思っていたが、こうして対峙してみると、確かに彼はその資質を秘めていると感じた。

だが、まだ未熟。

心・技・体、そのどれもが他を圧倒してはいるものの、うまく纏め上げられていない。

「惜しい」

まだ成長途中の優秀な剣士を、今ここで、散らせてしまうことが。


ふ、と空気が動いた。

そう思ったときには、2人は剣を引き抜いて中央で交わらせていた。