Faylay~しあわせの魔法

フェイレイが『勇者』を目指して剣士になったのは分かった。けれども、彼の話ではリディルが精霊士になった理由が分からなかった。

記憶がなかったのにも関わらず、自分がその素質を秘めていると──リディルが皇女と仮定しての話だが──知っていたのだろうか?

リディルは海にいるフェイレイに視線を向けた。

「……フェイは、『勇者』になりたくてギルドに入ったんだけど。でも早く強くなろうとして、無理ばかりして」

その気持ちは分かると、ヴァンガードは頷いた。自分も早く認めてもらいたくて、かなり無理をしていたと思う。

「いつも怪我をして帰ってくるから。だから……治してあげようと思って、その力が欲しくてギルドに入ったの」

「……え、それじゃ、フェイレイさんのために?」

「うん。でも」

リディルは桜色の唇に人差し指をそっと当てた。

「内緒だよ」

そう言って少しだけ首を傾げる姿は、思わず赤面してしまうほどかわいらしかった。

思わず顔を背けると、今度はリディルから質問された。

「ヴァンはどうして魔銃士になったの?」

「え、あ、それは……」

ヴァンガードは昨日フェイレイにした話を、リディルにも話して聞かせた。

「そっか。だから、フェイの前で無理して笑ってたんだ」

「……気付いてました?」

「うん。でも……」

リディルは頷き、抱えていた膝を伸ばした。

「今は、笑えてるね」