「じゃ、乾杯」


カチンとワイングラスを合わせ、一口飲んだ。


美味しい……


考えてみたら、お酒を飲むのはかなり久しぶりだ。


「うまい。やっぱりステーキにはワインだよな……」


「昨日は忘れてたんですか?」


「あ、ごめん。すっかり……」


「もう!」


「しかし渡辺さんが怒った顔って、初めて見たよ」


「不細工ですみませんね!」


「いや、可愛いよ」


「え?」


私は香取さんのその一言で、頬がカーッと熱くなるのを覚えていた。


「あれ? 渡辺さん、顔が赤いよ。顔に出ないんじゃなかったの?」


「こ、これは、お酒のせいじゃありませんから」


「と言うと?」


「香取さんが、急に変な事言うからです」


「俺が? 何の事?」


「もういいです」


首を傾げる香取さんの横で、私は香取さんが言った“可愛いよ”の言葉を、頭の中で何度も繰り返し再生していた。