「よ、佳奈。お待たせ」


「篤、この人は会社の上司なの。たまたまここで会ったの」


「ふ〜ん。じゃあ、行こうぜ」


「うん。では、失礼します」


私は拓哉さんにお辞儀して、佐藤君と腕を組んで歩き始めた。


拓哉さんの視線が、背中に突き刺さるような感じがした。


佐藤君としばらくそのまま歩き、角を曲がって周りから見えにくい場所まで来て、私達は立ち止まった。


「もう、いいんじゃねえか?」


「そうだね」


私は佐藤君の腕を放し、少し距離を空けた。


「おまえはいったい……って、おい?」


「う、ごめんなさい……」


「ほら、これ使えよ」


佐藤君はハンカチを差し出してくれた。

私は涙が、後から後から流れて止まらなかった。夕べ散々泣いて、涙は枯れたと思ったのに。